Anal Fissure
裂肛(切れ痔)の治療
排便のたびに鋭い痛みと出血——
繰り返す切れ痔は専門医にご相談ください。
最終更新日:2026年6月16日|監修:院長 錦織 英知(日本大腸肛門病学会 専門医・指導医)
裂肛(切れ痔)とは
裂肛(切れ痔)は、肛門の出口付近の皮膚(肛門上皮)が切れた状態です。痔核(いぼ痔)・痔ろう(あな痔)と並ぶ代表的な肛門の病気で、排便時の鋭い痛みと、トイレットペーパーや便につく少量の鮮血が特徴です。 硬い便や勢いのある下痢便が通るときに皮膚が裂けることで起こり、若い女性から高齢の方まで幅広い年代にみられます。
痛みのために肛門の筋肉(内括約筋)が反射的に強く締まると、その部分の血流が悪くなって傷が治りにくくなります。すると次の排便でまた切れる——という悪循環に陥りやすく、これが切れ痔を繰り返す・慢性化する大きな理由です。
急性のうちは、便通を整えて軟膏を使う保存的治療で改善することがほとんどです。 一方、繰り返して慢性化すると傷が深くなり、治りにくくなったり肛門が狭くなったりすることがあります。「たかが切れ痔」と我慢して放置せず、早めにご相談いただくことが、つらい状態を長引かせないコツです。
原因・リスク要因
多くは「便の状態」と「肛門への負担」が関わっています。
硬い便・便秘
最も多い原因です。硬く太い便が通るときに肛門の皮膚が裂けてしまいます。便秘がちな方は繰り返しやすく、便秘そのものの治療が予防につながります。
勢いのある下痢
硬い便だけでなく、勢いよく出る下痢便も肛門の皮膚を傷つけることがあります。下痢を繰り返す方も切れ痔になりやすいとされています。
排便時の強いいきみ
強くいきむ・長時間トイレで気張るといった習慣は、肛門に大きな負担をかけ、皮膚が裂ける一因になります。
肛門の血流低下・緊張
肛門の後方は血流が乏しく、傷が治りにくい部位です。痛みで内括約筋が緊張するとさらに血流が悪くなり、治りにくさに拍車がかかります。
妊娠・出産
妊娠中・産後は便秘になりやすく、出産時の負担もあって切れ痔が起こりやすい時期です。授乳中でも使える薬で対応できる場合があります。
痛みによる排便の我慢
痛みが怖くて排便を我慢すると、便がさらに硬くなり、次の排便でより大きく裂けてしまいます。これも切れ痔が繰り返す悪循環の一つです。
これらの要因は重なって起こることが多く、なかでも便の状態を整えることが、治療・再発予防の両面で大きな鍵になります。
種類と症状
裂肛は、経過によって急性裂肛と慢性裂肛に分けられます。どちらの段階かによって、治療の選択肢が変わります。
急性裂肛
発症してまもない、傷の浅い切れ痔です。排便時にピリッとした痛みと少量の出血がありますが、便通を整えて軟膏を使えば、多くは数日〜数週間で治ります。
慢性裂肛
切れたり治ったりを繰り返すうちに傷が深くなり、潰瘍のようになった状態です。傷の外側に「見張りいぼ(皮膚タグ)」、内側に「肛門ポリープ」ができることがあり、さらに長引くと傷の周りが硬くなって肛門狭窄(肛門が狭くなり便が出にくい状態)に進むこともあります。ここまで進むと、保存的治療だけでは治りにくくなります。
こんな症状はありませんか?
次のような症状がある方は、切れ痔の可能性があります。
- ✓ 排便時に肛門が切れるような鋭い痛みがある
- ✓ 排便後もしばらくジンジンと痛みが続く
- ✓ トイレットペーパーや便に少量の鮮血がつく
- ✓ 痛みが怖くて排便を我慢してしまう
- ✓ 肛門の外にひだ状のふくらみ(見張りいぼ)がある
- ✓ 同じ切れ痔を何度も繰り返している・便が出しにくくなった
排便時の出血は切れ痔のことが多いものの、痔核(いぼ痔)や大腸の病気が原因のこともあります。出血が続く・便が細い・便通が変わったといった場合は、症状だけで判断せず、一度ご相談ください。
検査・診断
痛みに配慮しながら、短時間で状態を確認します。
問診
いつから・どんな時に痛むか、出血の有無、便の状態(便秘・下痢)、繰り返しているかなどを伺います。これらは原因の見極めと治療方針の決定にとても役立ちます。
視診
肛門の状態を目で確認し、切れている部位や見張りいぼ・潰瘍化の有無を確認します。横向きに寝ていただき、必要な部分のみを短時間で確認します。
指診(痛みに配慮して)
肛門の緊張の程度や、肛門狭窄の有無を確認します。痛みが強いときは無理に行わず、潤滑ゼリーを併用し、患者さんの負担をできるだけ抑えて進めます。痛みで難しい検査は、状態が落ち着いてから改めて行うこともあります。
肛門鏡・ファイバー検査
専用の器具(肛門鏡)を使って、肛門内部や裂肛の状態を直接観察します。裂肛の位置や程度の評価に役立ちます。写真を患者様に確認いただき、肛門内の「見える化」に努めています。
出血が続く方へ
切れ痔と分かっていても、出血が続く・便が細い・便潜血が陽性・50歳以上で大腸カメラ未経験などの場合は、大腸の病気の有無を確認するため大腸カメラをお勧めすることがあります。診察のうえでご相談します。
治療・当院の対応
切れ痔の治療は、便通を整える保存的治療が中心です。多くの方は手術をせずに改善します。 繰り返して潰瘍化した慢性裂肛や、肛門が狭くなって便が出しにくい例では、外来での処置や手術を検討します。 当院は大腸肛門病専門医が、急性から慢性まで状態に応じて対応します。
保存的治療(治療の中心)
便通の改善(食物繊維・水分の摂取、便を軟らかくする内服薬、便秘・下痢の治療)と、軟膏・坐薬(傷の保護、痛みや炎症をやわらげる薬、肛門の緊張をゆるめる薬)を組み合わせます。 痛みが強いときは局所麻酔の入った薬も使います。あわせて、強くいきまない・トイレに長く座らないといった生活面の工夫もお伝えします。急性裂肛の多くはこの保存的治療で改善します。
慢性・狭窄例への外来処置・手術
保存的治療で良くならない慢性裂肛や、肛門狭窄を伴う場合には、外来での処置や手術が選択肢になります。 代表的な術式に、緊張した内括約筋の一部を切って肛門の締めつけをゆるめる側方内括約筋切開術(LSIS)、狭くなった肛門を皮膚弁で広げる皮膚弁移動術(SSG)などがあります。 見張りいぼや肛門ポリープを伴う場合は、あわせて切除することもあります。どの方法が適しているかは、状態を診たうえで一緒に検討します。
当院の方針
まずは手術をせずに治すことを第一に考え、便通の改善と薬による治療をしっかり行います。 繰り返す・狭窄があるなど手術を検討すべき場合も、必要性とタイミングをご説明したうえで判断します。 入院を要する大がかりな手術が必要なときは、連携医療機関をご紹介します。デリケートな部位だからこそ、痛みと羞恥心にできる限り配慮して診療します。
切れ痔は、放置すると慢性化して治りにくくなる一方、早めに対応すれば手術をせずに改善することが多い病気です。「恥ずかしい」「市販薬でしのいでいる」という段階でも構いません。まずはお気軽にご相談ください。
担当医より
錦織 英知
院長 / 大腸肛門病専門医